ホンとのところ

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吉村昭『羆嵐』(新潮文庫)

大正4年129日、北海道留萌支庁の山深い集落で日本史上最大と言われる獣害事件が起こった。死者7名重症者3名を出したこの事件を、記録文学の第一人者である吉村昭が静かな迫力でつづったドキュメンタリー。タイトルの「羆嵐(くまあらし)」はクマを仕留めた後に起こる強い風のことを言う。羆の襲来に右往左往する人間のちっぽけな姿は、自然の厳しさの前に愚かにすら映る。たった一人、羆に立ち向かう老猟師が格好良く、彼の抱える二面性―自然の中で生きる強靭さと人たる脆弱さーを描いた筆が奥深い。

 

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)