ホンとのところ

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岡田尊司『境界性パーソナリティ障害』(幻冬舎新書)

境界性 パーソナリティ障害がどのような障害であるのか、精神科医が専門的な見地から丁寧に
、初心者にもわかりやすく解説した入門書。
「障害」という言葉に、勝手に「病い」とは違う軽いものだと思ってしまっていたが、そうではなく、れっきとした病気で、治癒も可能だということをその対処法も解説する。
個人的には例として挙げられたヘルマン・ヘッセの事例がとても興味深く、『車輪の下』と『デミアン』は読んでみたいと強く思った。
それにしても、作者は回復可能であるというものの、人間関係の病であるだけに本人だけではどうしようもなく、関わる周囲の人(主に家族)の忍耐強い助けが必要で、それは少し絶望的な気持ちにもなる。なんといっても、もともと家族におけるコミュニケーションに齟齬をきたして境界性パーソナリティ障害を発症しているのに、家族にも大きな変革を要求するのだから。
著者が真っ当な人で、数々の症例を目にしてきた精神科医で、冷静に淡々と治療の道筋を述べてくれるから、読者である私はそこまで絶望的に感じなくて済むのが救い。人間を信じている力強さと、弱さを否定しない包容力を著者から感じたが、これはこの障害に関わる人にも求められている態度なのだ。
著者風に前向きに考えれば、障害を抱える当事者とともに支援する人も、ともに人間的に成長する病い、なのだろうか。
私がこの障害に当てはまるわけではないのだが、自分が弱っている時に出てしまう悪い部分には思い当たるところがあって、自分のことも振り返ることができる良書だった。