ホンとのところ

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グレアム・スウィフト『マザリング・サンデー』読了

書評家の豊崎社長がラジオ「デイキャッチ」に出演した時にオススメしていた一冊。

マザリング・サンデーという、召使が母親に会うためにもらえる特別な休日。第二次大戦前の、その一日を中心に描いている。主人公は当時、住込みのメイドをしていた女性。現在彼女は90歳で自分の過去を思い出している…。

たった一日を描いていて地味だが、彼女にとってその一日がどれほど大きいものだったかを読者として共有できて、素晴らしかった。彼女と共有するということは、他の登場人物の心情は分からず推測するしかなく、その潔さは余韻となり、今見ている朝ドラ『カーネーション』のようで。

カーネーション』もまた、主人公糸子の与り知らない他の人物の心情は説明されない。それは視聴者に任せるということでとても潔く、視聴者の想像力によってドラマに深みを持たせている。

同じように『マザリング・サンデー』も読者の想像力に任せてくれている。文章は平易で読みやすく、彼女の勤める屋敷も訪れる屋敷も読みながら自然に思い浮かぶ。ただ一日を淡々と描いているのに読者の心に波紋を起こす作者の描写力がすごい。

いいものを読んだ。新潮クレストブックスにハズレなし。社長の勧めるものにハズレなし。